仲代表の「グローバルの窓」

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第53回 “Japanese market are fetters for global business ?” (日本市場はグローバルビジネスの足枷 ?)

2023.10.12

さあ、デューデリだ!

 年が明けて、いよいよアルカテル社とのDue Diligenceが始まりました。デューデリジェンスは企業価値評価のことですが、今回はお互いの携帯電話事業について、財務状況、市場ポジション、競争力、IP含む技術力等を精査し、どのように事業統合し、新しい市場機会、シナジーを生み出すことができるかを判断することが目的でした。携帯電話事業本部のすべての部門を巻き込んでの対応となり、私の営業部隊も市場ポジションや売上等の面で対応しました。

 結構たいへんだなと思っていたところ、10日ほどして突然計画部から「デューデリは中止!」との連絡を受けました。昨年は2.5G、3Gともにパリに何度も出張して技術的な詰めを行い、いよいよ事業統合へ向け発進、と思っていただけに唖然としてしまいました。一体何が起こったというのでしょうか。

戦略の見込み違い?

 いろいろ聞いてみると、事業統合に際し、トップ同士の位相、思惑が合わず、交渉が決裂したとのことでした。具体的には、我々が3G通信のコア技術と日本市場を手放さないことに対し、それらを事業統合に含めないなら統合する意味がないとアルカテルが異論を唱えたのです。我々の主張は、3Gの技術トランスファーは行うが、技術の中身は開示しないことと、事業統合後の対象市場は日本を除く世界市場、ということでした。アルカテルにとっては、その2点こそが一番欲しいところだったので、それらが確保できないなら事業統合の意味はないというわけです。一方、我々は2.5Gの技術を確保し、海外市場に再参入し、海外事業を推進していくことが狙いでした。 

 肝心の事業戦略の根幹部分で折り合いがつかなかったのですから、デューデリが中止になるのは当たり前でした。当時のNECは、日本市場で30%のトップシェアを確保し、絶好調でした。日本市場だけを考えると、無理してアルカテルと事業統合する必要はなく、この事業統合は、海外に打って出るための戦略だったのです。大事な日本市場は自分たちだけで囲い込み、虎の子の3G技術の魅力でもって打って出ようという戦略でした。但し、3G技術もコア部分は開示しない形での技術トランスファーという都合のいい戦略でした。

 私は、携帯電話事業本部のトップがそういう考えとは知らず、当然、彼我の携帯電話事業全体の統合だと思っていました。この話を聞いたとき、そりゃアルカテルは呑まないだろう、わかりきっているではないかと最初は思いました。しかし、それは現場サイドの見方で、もし、アルカテル本社が携帯電話事業を切り離そうと思っていたのなら、当方の戦略に乗って来る可能性はあったのかもしれません。

 日本市場は足枷?

 結局、アルカテルの携帯電話事業のトップが「話にならん!」ということで反発し、アルカテルの本社側も彼の主張を覆すことができなかったということだったのでしょうか。このあたりの真相はよくわかりませんが、結果として彼が「そんな条件の事業統合なら絶対に呑めない」と強硬に反対し、アルカテルとの事業統合はご破算になりました。

 私のように海外事業を推進する立場の者からすれば、この結末は「ドメスティックカンパニー」であることを思い知らされる出来事に映りました。日本の携帯電話事業は、日本市場だけで大きな売上と利益を確保できるのです。なにも無理してまで海外市場に手を出す必要はないと考える人もいたでしょう。一方、韓国のサムスンなどは、韓国市場が日本ほど大きくなく、韓国市場だけでは事業としてうま味がないので、海外に出て行かざるを得ないのです。サムスンはドメスティック思考ではやっていけません。そこが日本企業との違いなのだろうと思います。

 なまじ日本市場だけで十分すぎるビジネスが成り立ってしまうところに日本企業のグローバル化に対する難しさやジレンマがあったように思います。このアルカテルとの事業統合の案件は、やはり守るべきは日本市場なのだということを突きつけられた気がしました。この経験から、日本で事業がうまくいっていると却ってグローバル化には足枷になり得るという逆説を学びました。


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