マーケティング最前線!

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人気バンド「King Gnu」常田大希氏とドジャース大谷翔平選手の「メタ認知的思考」!

2024.03.15

番組『常田ジャム』は「神回」!

テレビ朝日系『関ジャム 完全燃SHOW』(2023年5月28日)で『常田大希特集』が放送されました。常田氏が率いる人気ミクスチャーバンド「King Gnu」(キングヌー)に影響を与えている『東京事変』の椎名林檎氏をゲストにむかえ、常田大希(Tsuneta, Daiki)氏自身が楽曲の制作秘話やアマチュア時代のエピソードなどを語りました。

常田氏の名前を冠して、この回の放送は、ファンや関係者、ネット上で「常田ジャム」と呼ばれています。ちなみに、もともと「ジャム」とは、音楽の「ジャムセッション」(jam session)に由来し、予め用意しておいた楽譜、アレンジにとらわれずに、ミュージシャン達が集まって即興的に演奏をすることを意味します。

ゲストに、新井和輝氏(King Gnu/millennium parade)、OSRIN氏(アートディレクター、PERIMETRON、)も加わり、さらに、アーティスト米津玄師氏やVaundy氏からも貴重なコメントが寄せられました。King Gnuのヒット作の(マーケティング的)原点と、それを牽引する常田大希氏の発想/戦略が理解できる「神回」(かみかい)となりました。神回とは、傑出した出来映えの放送回を賞賛する表現です。

ここで、「King Gnu」と常田氏のプロフィールを、所属レーベル「アリオラジャパン/ソニー?ミュージックレーベルズ」の情報などをもとに確認しましょう。

 東京藝術大学出身(中退)の音楽家/クリエイター?常田大希氏が率いるミクスチャーバンド。最強の音楽家とクリエーターがそろっているという意味で「無敵艦隊」とも呼ばれる人気バンド。ギター&ボーカルを担当する常田氏は、鍵盤楽器や弦楽器(チェロ、ベース)など多様な楽器を演奏し、(コンピューター)プログラミングも行い、King Gnuの全楽曲を作詞?作曲。

メンバーは、常田大希氏と、勢喜遊氏(Dr, Sampler)、新井和輝氏(B)、井口理氏(Vo, Key)の4人。「奇跡の美声」を持つと評されるボーカル(兼キーボード)の井口氏は、常田氏と同じ東京藝術大学の音楽学部声楽科卒業。

より分かりやすい「King Gnu」(キングヌー)に改名

2017年4月に、(難しい名称の)「Srv.Vinci」(サーバヴィンチ)から(「大衆性」を意識したより分かりやすい)「King Gnu」(キングヌー)に改名。同年10月に1stアルバム「Tokyo Rendez-Vous」(トーキョー?ランデブー)を発表、2018年1月に初のワンマンライブ開催。ちなみに、サーバヴィンチ時代は、「サーバ上のレオナルド?ダ?ヴィンチ」という意味で、「レオナルド?ダ?ヴィンチがもし、パソコンを使ったら?」というようなコンセプトで、前衛的な音楽が制作されました。

「King Gnu」(キングヌー)の名称は動物のヌーに由来。少しずつ仲間と合流し、やがて巨大な群れで行動する習性を持つヌーのように、着実にファンを増やし大きな群れに育って活動していきたいという思いが込められています。

17年7月には配信シングル「Flash!!!」をリリース。フジテレビ系「ノイタミナ」枠で放映のテレビアニメ「BANANA FISH」にエンディングテーマ『Prayer X』(2018年)を提供(「ノイタミナ」とは「Animation」(アニメーション)の逆転表記で、「アニメの常識を覆したい」という意味)

King Gnuは、2019年1月にアリオラジャパンよりメジャーデビューアルバム「Sympa」をリリース。翌年2月には日本テレビ系「イノセンス 冤罪弁護士」(坂口健太郎氏主演)主題歌『白日』を配信リリース。バンド初のドラマタイアップ曲の『白日』(はくじつ)は、YouTubeのMV(ミュージックビデオ)で4.5億回(2023年10月時点)を超える大ヒット。以降、現在までの大活躍にいたっています。

<King Gnu official YouTube channel – 『白日』のMV>

(↓↓音声が出ます)

『Prayer X』(2018年)発表の少し前から、J-POPや大衆性を意識するようになった常田氏。「いつまでも、お金のかからないファミレスで楽曲を創っているわけにはいかない。映像制作担当者にちゃんとギャラを支払いたい」という現実的な意識の変化から、ヒットを連発しているサザン(サザンオールスターズ)やミスチル(Mr.Children)を聴きはじめたそうです。

番組内で中学/高校の頃のエピソードが披露されました。学園祭で「かなり尖った洋楽」を演奏したとき、彼女に「ぜんぜんわかんない」「ぜんぜん盛り上がっていない」と、塩対応された常田氏。『Prayer X』制作の少し前から、「彼女の塩対応の時代」に時計の針を巻き戻し、「一般の人たちの気持ち」に向き合おうと考えたとのことです。

常田氏WORKS 自己分析シート

一般にクリエイターと呼ばれる人々は「発想法」を隠す傾向が強いなか、この「常田ジャム」の中で、常田氏による自己分析シートが公開されました。その分析シートに対して、ゲストの椎名林檎氏が「何て無防備な!」と驚愕。このとき、椎名氏は「常田氏が自身の創作手法を隠したりしない姿」に「常田氏の『品』を感じる」というコメントを残しています。

 常田氏は、番組のために、自身の楽曲を7つのカテゴリーに「ブレイクダウン」したリスト、「常田大希WORKS カテゴリー」を惜しげもなく公開。

 ブレイクダウンとは、上位概念から中位/下位概念に分けていく、またはアイデアなどの概要を細分化する(落とし込む)こと。たとえば、抽象的な大目的を達成するには何が必要かを、「How?」(どのように)を繰り返して深掘りしながら目的を細分化し、実現可能性を高めていきます。

 大谷翔平選手の「目標達成シート」との共通点

常田氏の「7つのカテゴリー」(「常田大希WORKS カテゴリー」)の説明を聞いたとき、MLB?LAドジャースの大谷翔平選手が高校時代に作成した「目標達成シート」(マンダラチャート)のことを思い出しました。大谷選手の「目標達成シート」は、小学校の教科書を含め、日本のさまざまなレベルの教育分野で頻繁に引用/言及されています。

大谷選手の「目標達成シート」は、最終目標を明確にし、それを達成するための具体的な項目を可視化したフレームワーク。一番達成したい目標(夢)をフレームワークの「中心」に設定し、周囲の80マス(9×9-「1」(大目標)=80)に細分化した目標を書き込んだものです。これにより、アイデアを整理したりイメージを膨らませたり、思考を深めたり、さまざまな場面や用途に活用できます。

大谷選手がシートの中心に書いた夢は「8球団からのドラフト1位指名」(上位概念)。次に、大目標を達成するために必要な要素(中位概念)を8つ抽出。それが、体づくり、人間性、メンタル、コントロール、キレ、スピード160キロ、変化球、運の8つ。続いて、8つの項目を満たすのに必要な要素(下位概念)を同じく8つずつ記入。下位概念として、たとえば、コントロールをよくするために、「体幹強化」(トレーニング面)や「不安をなくすこと」(メンタル面)などさまざまな視点から要素を導出しています。 

常田大希 WORKSの7つのカテゴリー

では、「常田大希WORKS カテゴリー」を紹介しましょう。以下のとおり、常田氏は自分の「WORKS」(作品)を7つのカテゴリーに分解して、「どこをめがけて進んでいくかは、ある程度最初から判断している」と説明。7つのカテゴリー分析の背景として、「何も考えずに作品を造ってしまうと、『学園祭の頃』に戻ってしまう」というコメントを残しています。

1. 【大編成BIG BAND】 たとえば、アニメ映画『竜とそばかすの姫』(細田守監督)のメインテーマ『U』(常田氏が率いる音楽集団「millennium parade」)。

2. 【オルタナティブロックバンド】 「NIRVANA」(ニルヴァーナ)に代表されるアンダーグラウンドの精神を持つロックのジャンル。たとえば、映画『劇場版 呪術廻戦0』の主題歌『一途』(King Gnu)。

3.【アンビエント】 「環境音楽」。たとえば、『NIGHT POOL』『泡』(King Gnu)。

4. 【バラード】 井口氏の美声が特に生かされる音楽ジャンル。『白日』『カメレオン』(King Gnu)。

5.【映像パフォーマンス演出】 MVに登場した子どもたちがテレビ朝日『ミュージックステーション』(Mステ)でもパフォーマンスし話題となった『BOY』(King Gnu)。常田氏によると、曲の制作の段階で、Mステに「子供を使った演出」で登場するイメージが出来上がっていたとのこと。

6. 【Beatもの】 金属音や電子音など機械的なノイズを特徴とする音楽。たとえば、『Trepanation』(millennium parade)。

7.【クラシック】 東京藝術大学チェロ専攻であった常田氏が専門とする作品。『サマーレイン?ダイバー』(King Gnu)。

常田氏の「WORKS」の7つのカテゴリーは、彼の中の「天才的な先鋭さ」と「大衆性」の思考の幅のなかで、絶妙な「バランサー」(釣り合い装置)の機能を果たしていると評価できます。

直感的ではありますが、常田氏と大谷選手との間に、大目標を達成するための思考方法や実践方法に共通点があるように思えます。その共通点が、優れた「メタ認知能力」です。

 「メタ認知能力」とは?

「メタ認知」(metacognition)とは、子供の発達心理学を専門とする米国人心理学者ジョン?H?フラベル(John H. Flavell)博士が提唱した概念です。

(ギリシャ語に由来する)「メタ」(高次の)という言葉のとおり、「認知していることを認知すること」。たとえば、自分が何かをしているときに、自分の中のもう一人の自分が俯瞰(ふかん)して自分を冷静に見ているような感じ。つまり「自分を客観視する能力」です。 

「メタ認知」の説明でしばしば言及されるのが西洋哲学の父、ソクラテスの「無知の知」(Socrates Paradox、「ソクラテスの逆説」)という考え方。「無知であることを知っていること」すなわち「自分がいかにわかっていないかを自覚せよ」という意味。まさに、自分自身の客観視です。

もう一つの例は、イタリア「ACミラン」への移籍時の会見での、サッカー元日本代表選手の本田圭佑氏の発言。「私の心の中の『リトル?ホンダ』がACミランだと答えた」。この「心の中のもう一人の本田氏」こそ『メタ認知』の好例です。

一般に、メタ認知能力が優れていると、物事の本質を捉え、冷静に行動できるようになるのと同時に、戦略的に判断できるようになります(逆にいうと、第三者がみれば、「この人はメタ認知能力が高いかどうか」、ある程度わかってしまうといわれています)。

その意味で、常田氏の「常田大希WORKS カテゴリー」や大谷選手の「目標達成シート」は、自分を冷静に見つめ、本質を見抜き、そこから戦略を描きだし実践していくための思考ツールだと解釈できます。

ビジネスなどの人材教育でも、最近、メタ認知能力を高めることが注目されています。「タスクに戦略的に取り組める」「職場でのコミュニケーションが円滑になる」などの効果が期待されています。

日常のビジネスシーンでも、常田氏、大谷選手、本田氏のようなメタ認知的な思考方法を取り入れてみると、きっと新しい世界が見えてくると思われます。

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