仲代表の「グローバルの窓」

仲代表の「グローバルの窓」

第69回 “The last thing you need is to rely on your resolve and intuition.”(最後の拠り所は、覚悟と直感です)

2024.06.19

200億円のプロジェクトは断念

 パキスタンのプロジェクトは、シーメンスをコンソーシアムのプライムにして、当方はスマートメーター側の取りまとめ役として臨もうと考えました。そのため、出張期間中に何とかシーメンス(アジア?中近東地区の責任者)とのアポを取り、交渉を開始しました。しかし、シーメンスにしても自社のコンピタンスが及ぶのは部分的で、全体統括によるプライムとしてのリスクを背負いこむことに躊躇がありました。スマートメーター側は当社がリスクを取るので検討してくれと粘りましたが、交渉の2日後返事がきて、当社がプライムでやるならシステム側の取りまとめ役として検討するとの回答でした。シーメンスも当社同様、全体のリスクを取ることに躊躇があったのです。

 この回答を受けて、日本に帰国。当社がプライムとしてリスクを取る以外にプロジェクトを進める道はない旨事業部長に説明しました。私の意見としては、当社がそこまでリスクを負うことに踏み切れない。理由は200億円規模のプロジェクトが実現するにはパキスタン政府の覚悟ができていないこと、当社の技術コンピタンスの及ぶ範囲が限定的で、技術問題が起きれば当社では対応できないことを挙げました。事業部長も私の意見に同意し、本プロジェクトは断念することになりました。一生懸命尽力してくれたパキスタン駐在員事務所の現地人スタッフには「期待に応えられず申し訳ない」と言いましたが、彼らもリスクを取るかどうかは本社の判断なので、従う他ありませんでした。

 この出張で私は駐在員事務所のトップ(首席駐在員)やその仲間のパキスタン人と親しくなりました。首席駐在員はユーモアのある人で、オフィスではいつも笑いが絶えませんでした。私は、別のビジネスチャンスがあればまた一緒にやりたいと思いました。真摯にビジネスに取り組む姿勢や前向きな考え方、それにユーモアの伴った柔軟な態度は非常に好感が持てました。

「ロジック」ブーム

 この頃のNECは、全社的に「ロジック」ブームでした。困りごとや課題の仮説を立て、その解決策を検討。そのため客観的なデータを集め、ロジックを組み立ててビジネスプランを作るのです。役員が「ロジックが大事」と言ったものですから、みんなそれに靡いていく感じでした。研究所から来られた上司の事業部長とこのことで議論したことがありました。

上司 「海外市場でエネルギーのビジネスをどうしていけばいいと思いますか。私は、お客の課題や困りごとに仮説を立てる。そのために客観的なデータを集め、分析し、ロジックを打ち立てる必要があると思います。

私  「そうですね。たしかにロジックは大事ですが、ロジックばかりに固執してもビジネスはうまくいかないと思います。むしろ、ロジックを越えたところで判断せざるを得ない状況の方がビジネスでは多いと思います。

上司 「そうはいってもロジックが拠り所でしょう。ロジックなしにむやみに行動するのはどうかと思います」

私  「それはそうですが、ロジックにこだわり過ぎるあまり、人の感情や市場の想定外の動きに気づかなくなるのはまずいと思います。そのあたりの匙加減ではないでしょうか」

上司 「匙加減といっても拠り所が必要でしょう。それはやはりロジックになるのではないでしょうか」

私  「私はそうは思いません。最後の最後はロジックではなく、直感と覚悟、それから信念と情熱ではないかと思います。ロジックをしっかり詰めていく必要はありますが、そこにこだわりすぎると行動が伴わなくなります。ロジックだけでものごとが進むのならビジネスは簡単です。そうはいかないから難しいのです」

 議論をしていて、どちらが正しいとか間違っているとかいう話ではないのだろうと感じました。
私が言いたかったのは、ロジックにとらわれ過ぎていては先に進めなくなる。

 それから市場は人間の感情で動いている部分が大きく、それは理屈ではない、ということです。そこをロジックで覆うと落とし穴があると言いたかったのです。ロジックを絶対視すると、ロジックのとおりに進まなくなったときにパニックになってしまうのです。

 パキスタンのプロジェクトは、ロジックとしても、私自身の直感、覚悟としても踏み切ることができませんでした。パキスタンの現地人スタッフの熱意とユーモアが光っていたプロジェクトでした。彼らとは別のプロジェクトで一緒にやりたかったと今でも思っています。

神田外語キャリアカレッジ > ブログ > 仲代表の「グローバルの窓」 > 第69回 “The last thing you need is to rely on your resolve and intuition.”(最後の拠り所は、覚悟と直感です)