仲代表の「グローバルの窓」

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第70回 “Singapore is safer than Japan!”?? (シンガポールは日本よりも安全!)

2024.06.24

シンガポール出向

 スマートエネルギー事業本部に異動して1年半が経ちました。海外のビジネスは買収した蓄電池の米企業のビジネスを中心に展開していました。私自身は直接関わらず、蓄電池を利用したエネルギーソリューションのビジネスの可能性を追求していました。

 そんな折、常務から突然シンガポールに出向して欲しいとの話がありました。シンガポールでの勤務先はアジアの地域統括会社です。2年くらい前にエネルギー事業の部門を立ち上げましたが、今一つ事業が進まず、リーダーが辞め、2名が残るだけとなっていました。そのテコ入れと蓄電池を活用したエネルギーソリューションの新規事業を立ち上げて欲しいというミッションによる出向命令でした。

 既に55歳の手前でしたので、恐らく最後の海外勤務になるだろうと思いました。奥さんに話をすると、「最後になるだろうから思い切ってやってきたら」と言われました。但し、単身赴任です。シンガポールは20年前のアジア事業第一部のときに何十回と出張して馴染んでいましたし、大好きな国でしたので、非常にありがたい話でした。

チャンギ空港に到着するも

 赴任準備は、慣れた国でしたので、気軽に進めていました。赴任日前日まで仕事をし、当日出発の朝、奥さんの車で会社にスマホを返却したり、事務手続きをしたりでばたばたしました。羽田で見送ってもらったあと、やっと一息つけました。4度目の出向でしかも単身赴任でしたので、日常の延長みたいな感じで対応していました。

 シンガポールのチャンギ空港に到着すると、アジア統括会社の人事の責任者が出迎えに来ていました。私はエネルギー事業の責任者ではありますが、わざわざ空港に出迎えてもらうほどのVIPではないので、なんで人事の方が来られたのか不思議に思いました。その方に「わざわざ空港まで迎えに来なくても、こっちは4度目の出向で、しかも治安のいいシンガポールだから何の問題もないよ」と言いました。すると、「いやいや、仲さん、このままホテルに行けますか。シンガポールドルのお金がありますか」と言うのです。「えっ」と思って調べると財布がありません。「そうでしょう。だから私が来たんですよ」とのこと。奥さんが会社に財布がない旨連絡し、心配した部下がわざわざシンガポールに連絡してくれたのです。ぎりぎりまでばたばたしていた罰が当たりました。財布は車の助手席に落ちていたとのことでした。

 赴任初日からやってしまいました。私はそのまま人事の方を食事に誘い、今後よろしくと挨拶しました。夕食を奢ったことは言うまでもありません。家にも連絡して、感謝と謝罪の意を伝えました。財布は、そのあとすぐに出張に来たエネルギー事業の出張者が持参してくれ、事なきを得ました。

警察のお世話に

 十日後、別の出張者がまた来て、これからアジアでエネルギー事業を立ち上げようと盛り上がり、そのまま2次会に行きました。2次会はオーチャード通りに面したカッページプラザにあるカラオケ店で、1次会の勢いのまま、さらに気炎を上げました。お店を出て別れたあと、私は歩いて5分もかからない家に向かおうとしました。ところが急にくるくると頭が回り出しました。酔いが一瞬のうちに襲ってきたのです。オーチャード通りを渡ろうと思うのですが、頭がくらくらして動けません。通りの柵に体を凭せながら酔いが醒めるのを待ちましたが、醒めるどころかますます酔いは勢いづきます。大事なものは全部持ち歩く習性があり、この日の上着のポケットには、就労ビザとスマホが入っていました。いろんな人が絡んでくるのは朧気ながらわかるのですが、意識が酔いで朦朧としています。ただ、就労ビザだけは絶対に守ろうと、上着の左ポケットを押さえました。最悪、右ポケットのスマホは盗られても仕方がないと思いながら、ひたすら左ポケットを左腕で押さえ続けました。途中、警察官が「動けるか」と声をかけてきたのは覚えているのですが、そのまま酔いつぶれたようです。

 翌朝8時に目が覚めると、私は病院にいました。そばに警察官2人がついています。動けなかったので、病院に連れてきてくれたようです。私は警察官2人に感謝し、「もう大丈夫だから帰ります」というと、「NO」と言います。ドクターチェックが必要だというのです。出張者との打ち合わせがあるので、早く会社に行かないといけない私は、「すぐにドクターを呼んでくれ」と言いました。しかし、ドクターは10時にならないと来ないので、それまで待てとのこと。仕方なく10時まで待ちました。

 ドクターが来ました。私を診るや、「こりゃ問題ない、単なる酔っ払いだ」と言いました。私はほれ見たことかと「じゃ、帰らせてもらうよ」と言ったのですが、またもや「NO」。一緒に署まで来いというのです。署に警察の車で連れて行かれました。到着するや、持ち物を全部出し、服を脱がされ、牢獄に入れられるではありませんか。「おれは何もやっていない、盗られたのも携帯端末だけだ」と訴えましたが、「Investigator(調査官)が来るまで待て」と言います。「何時に来るんだ」と聞くと、「2時くらいじゃないか」と言います。午前中はつぶれるのは仕方ないといして、せめて午後からは仕事に戻りたかったので、「ちょっと待ってくれ。そんなに遅いのなら、会社に連絡しないといけない。みんな心配している。せめて電話一本入れさせろ」と交渉し、何とか1回だけの電話が許されました。

 電話で私は、「とにかく無事だから心配しないで。だけど、すぐに動けないので会社には行けない。また連絡します。今日は申し訳ありません」と早口で謝罪しました。出張者の方は何のことかわからなかったと思いますが、とにかく、私が今日、会社に来られないことはわかっていただきました。

 結局、Investigatorは18時前に来て、それから1時間ほど私にヒアリングしながら調書を仕上げました。私はようやく解放されました。19時前だったと思います。それまでInvestigatorを待つ間、ずっと牢屋に入ったままでした。いい経験でしたが、むき出しのトイレとコンクリートは匂いもよろしくなく、寝心地も悪く、あまり長くいたくない所でした。そもそも何もやっていないのになんでこんな取り調べをするのか?と聞いたのですが、どうも私が犯罪を犯したというより、いろんな被害に遭ったのではないかということで詳しく取り調べを行ったようです。スマホ以外に何も盗られなかったか?と何度も聞かれました。

優れた治安国家

 赴任早々、財布は忘れるわ、牢屋に放り込まれるはで、先行きが思いやられるシンガポール赴任の始まりでした。ちなみに、これは2015年10月の出来事で、この少し前にリトルインディア地区で22時過ぎ、酔っ払いの喧嘩が路上であり、酔っ払いの取り締まりがちょうど厳しくなった矢先だったようです。だから、警察も取り締まりを厳しく、慎重に対応する必要があったようです。それにしても、日本よりも安全といわれるシンガポール。すぐに警察官が登場し、きちっと取り調べるあたり、やはり優れた治安国家なのでしょう。赴任早々身をもってそのことを体験する出来事でした。

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